管理人の愛するパット・メセニー・グループの(『コードネームはファルコン』を除いた)12作目『SPEAKING OF NOW』(以下『スピーキング・オブ・ナウ』)は,5年ぶりのアルバムにして大幅なメンバー・チェンジの“新生”パット・メセニー・グループの名盤である。
アルバム・タイトルの『スピーキング・オブ・ナウ』とは「現在のパット・メセニー・グループ・サウンド」の意。
不動のレギュラー・メンバー3人(ギターのパット・メセニー,ピアノのライル・メイズ,ベースのスティーヴ・ロドービー)と新加入の3人(ドラムのアントニオ・サンチェス,ボーカル&パーカッションのリチャード・ボナ,トランペットのクン・ヴー)の融合が織り成す新たなユニヴァースは,メンバーが変わっても,いい意味で“伝統の”パット・メセニー・グループ・サウンドに変化なし。
く~っ。繰り返し聴き込むうちに押し寄せる“強くて深いメロディ・ライン”が感動的である。そう。パット・メセニー自身が語っているように“新生”パット・メセニー・グループは“シンフォニックでファンタジック”であった。
ではライブはどうなのか? その答えが『SPEAKING OF NOW LIVE』(以下『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』)にある。
『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』は“新生”パット・メセニー・グループの『スピーキング・オブ・ナウ』の“恒例”プロモーション・ワールド・ツアーのライブDVD。
『スピーキング・オブ・ナウ』に限らず,パット・メセニー・グループは新作のプロモーション・ワールド・ツアーで,ニュー・アルバムの音を固め楽曲を磨き上げていく。そうした日々のチャレンジを共有することでパット・メセニー・グループ自体も成長していく。
管理人の結論。『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』程,濃密な音に仕上がったライブはない。CDを再現したアレンジのはずなのに,楽曲成長の余地,伸び代を感じさせたライブはない。
元々『スピーキング・オブ・ナウ』の第一印象は“さらっと聴けて飽きがこない”であった。以前のパット・メセニー・グループの特長である“突き抜けた曲”はない。全体のトーンは渋い音色。
それがどうだろう。『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』で聴いた“馴染みの”【PROOF】【ANOTHER LIFE】【A PLACE IN THE WORLD】は,ライル・メイズの雄大なスケール感。【GO GET IT】【THE GATHERING SKY】は,アントニオ・サンチェスの1人ポリリズム。【YOU】【ON HER WAY】は,リチャード・ボナのマルチな才能のコンビネーション。
全てに“成熟した音使い”が素晴らしい。パット・メセニーの提供したソロの素材を自分色で塗り替えることで,楽曲のイメージを“より強烈&鮮明”に感じることができた。
『スピーキング・オブ・ナウ』成長の要因=新メンバーの成長=新生”パット・メセニー・グループの成長であろう。
パット・メセニー・グループ初のホーン奏者となったクン・ヴー。【SCRAP METAL】を聴けば,なぜパット・メセニーがクン・ヴーをスカウトしたかがよく分かる。
クン・ヴーはパット・メセニーの“アイドル”オーネット・コールマンである。クン・ヴーとの共演でパット・メセニーのギターが歓喜の声を上げている。
【SONG FOR BILBAO】で“本職”のベーシストへと戻ったリチャード・ボナが“パット・メセニー・グループの一員として”ボーカリストへと徹している。
リチャード・ボナはパット・メセニーの“アイドル”ジョージ・ベンソンである。超高速でのベースとボーカルのユニゾンは,ジョージ・ベンソンの高速スキャット以上である。ボナを見つめるメセニーの“恍惚の表情”に大注目。
…と『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』での“豊穣の音”についてレビューしてきたが『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』のハイライトは“無音&沈黙”の瞬間にある。
そう。【IN HER FAMILY】終わりのパット・メセニーとライル・メイズのあんなに“満足げな表情”を見せられたら…。いつしか会場全体が2人の“静かな感動”を共有する様に涙&涙します。
( 注: ライブDVD『IMAGINARY DAY LIVE』での【SEPTEMBER FIFTEENTH】と同じ展開ではありますが,パット・メセニー&ライル・メイズの“感動の質”が桁違いです )
最後にDVDの“お約束”パット・メセニーのギター祭り批評。
相変わらずトラック毎にギターを“とっかえひっかえ”原曲のデフォルメ・アレンジで弾きまくっています。見所を2つだけ挙げると『ONE QUIET NIGHT』で“初見参”の【LAST TRAIN HOME】のバリトン・ギターと【ARE YOU GOING WITH ME】でのピカソ・ギター。“ジャズ・ギタリスト”パット・メセニーのハイ・テクニックの秘密が超アップで楽しめます。
PS 『スピーキング・オブ・ナウ・ライヴ・イン・ジャパン』を見終えて苦言を一言。白熱のステージをおとなしく見守る観客の山。日本人はなんてお行儀が良いのだろう。そんなことだから『THE WAY UP - LIVE』は韓国に取られてしまうんだよなぁ。あっ,パット・メセニーのギター・プレイを“お口あんぐり”で見入ってしまった管理人の姿が? だって“お口あんぐり”しちゃうもん?
01. Last Train Home
02. Go Get It
03. As It Is
04. Proof
05. Insensatez (How Insensitive)
06. The Gathering Sky
07. You
08. A Place In The World
09. Scrap Metal
10. Another Life
11. On Her Way
12. Are You Going With Me?
13. The Roots Of Coincidence
14. A Map Of The World ~ In Her Family
15. Song For Bilbao
PAT METHENY GROUP
PAT METHENY : Acoustic, Electric & Synth Guitars
LYLE MAYS : Acoustic Piano, Keyboards, Guitar
STEVE RODBY : Acoustic & Electric Bass
RICHARD BONA : Vocals, Percussions, Guitar, Electric Bass
CUONG VU : Trumpet, Vocals, Percussions, Guitar
ANTONIO SANCHEZ : Drums
(ライナーノーツ/熊谷美広)
コメント
こんにちは♪
新しいメンバーでのツアーライブ♪リチャード・ボナの圧倒的なパフォーマンスと、クン・ブーの魅力的なトランペット・・長いライブを飽きる事なく、一気に見入ってしまいます。曲も粒ぞろいで、何度見ても飽きないライブ映像ですよね(^^)
今回もパットの多彩なギターの音色を楽しめたし、ライルメイズは相変わらず素敵だし、他のメンバーの安定感も言う事ないし、文句の付け所がないですね(^^)
それにしても、オープニングのラスト・トレイン・ホームは意表を突かれました(笑)
そうそう、ウェイ・アップのライブは韓国でしたね!あのライブも素晴らしかったです♪やはり、お国柄というのがライブには、どうしても出てしまいますね。スクエアやカシオペアの韓国ライブも、母国日本とは盛り上がり方が全く違いますよね。
でも、日本のリスナーは「音楽を真剣に聴いてくれている」とある外国人ミュージシャンが言っていたのを覚えています。それぞれの国の聴き方って、ホント面白いですよね(^^)
風の少年さん,コメントありがとうございます♪
日本のリスナーは「音楽を真剣に聴いてくれている」は定説ですが,でもでもアンコールの【SONG FOR BILBAO】でも席に座っての声援はPMGファンとしてはどうにも…。あっ,私も一人だけはスタンディングできない性格なもので。すみません。
福岡在住のPMGファンとしては東京よりソウルの方が都合が良いし盛り上がる~。一度は冒険してみようかなぁ。
今週はチキン・ジョージですね。今度は風の少年さんをPMGのソウル公演へお誘いしますね。コリアンが話せるPMGファンの友人がいるので安心ですよ~(このお誘いのくだりは読み流してくださいませ)。
『SPEAKING OF NOW LIVE』は未聴ですが、セラビーさんのレビューが気になったものでコメントさせていただきます。
それはPMGにおけるライル・メイズについてですが、パット・メセニー最愛のパートナーとしてのライル・メイズの存在は他のメンバーとは別格ですね。
パット・メセニーとブラッド・メルドーの組み合わせもいいですがPMGのピアニストはライル・メイズ以外には務まりません。
私もメセニーとメイズにしか表現できない世界があると思います。DVDすぐに購入します。【SEPTEMBER FIFTEENTH】を超えた【IN HER FAMILY】が楽しみです。
のぶひでさん,コメントありがとうございます♪
ライル・メイズはソロだとイマイチなのに?(メイズ・ファンの方すみません)PMGでは最高です。メセニーと一緒に音を出すと何かがあるんでしょうね。
【IN HER FAMILY】は演奏もいいですが演奏終わりの表情・雰囲気をお見逃しなく~。