ギル・エヴァンス / ギル・エヴァンス・ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター

GIL EVANS:LIVE AT THE PUBLIC THEATER-1 “俺をダウンさせた唯一の男”とかつてマイルス・デイビスをして言わしめた男がギル・エヴァンスである。しかし,その偉大な功績に不釣り合いなほどギル・エヴァンスは生きることに苦労した。生涯中に一度も売れたことはない。

 マイルス・デイビスとのコラボレーションで名前だけは知れ渡っているが,真にギル・エヴァンスの音楽性を理解している人間が一体どれほどいるだろうか?
 そういう管理人もマイルス・デイビスギル・エヴァンスとのコラボ作も全部聴いてはいたが,あの時点では「電化マイルス・命」だったゆえギル・エヴァンスについては,単なる人気アレンジャーの1人,という認識しかなかった。
 管理人がギル・エヴァンスの真の凄さを理解したのは,菊地雅章にドハマリしてギル・エヴァンス方面へ流れてからのことである。

 ギル・エヴァンスが革新的だったのは「音楽を決して完成させない」ということだった。
 ギル・エヴァンスの音楽とは,ソロとアンサンブル,またメロディーとリズムを自由かつ即興的に組み合わせていきながら,必ずや有機的な構築に仕立て上げ,最後には思わず立ち止まされてしまう,テーマと伏線が最後に回収される音楽である。
 あたかも「2時間ドラマ」を見せられているような緻密で壮大な音楽であり,その中心にいるギル・エヴァンスとは要するに“脚本家”なのである。

 「音楽を決して完成させない」という“脚本家”ギル・エヴァンスが,台本ならぬ譜面を余白十分の状態にして書き上げる。
 一般的に音楽とは,まず提示があり,次に展開があり,最後に解決される。だが,そこに提示されるものは単一とは限らないし,展開される渦中に新しい提示が生まれる場合もある。ギル・エヴァンスオーケストラのように,サウンドや楽想の発展の鍵をスコア自体が握っているのではなく,時にバンドのメンバー個々の自由な参画が曲のニュアンスを決定付ける場合がある。

 だからこそギル・エヴァンスの楽曲は「永遠に未完成」のままなのだ。永続的な進行とその折々に発生する新しい展開との出会いがある。ジャズに限らずロックやクラシックにおいても「曲が成長する」ことは本当に起こり得ることなのだ。

 『GIL EVANS:LIVE AT THE PUBLIC THEATER』(以下『ギル・エヴァンス・ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』)は「曲を成長させる」ことを楽しみとするギル・エヴァンスの最良のヒトコマの記録である。
 レコーディング当日を迎えるまでに,ライブで演奏回数を重ね,積み上げてきた「譜面への理解と即興との調和」が最良の形になっている。ライブでのハプニングが絶妙なバランスで記録されている。

 ギル・エヴァンスが信頼を置くバンド・メンバーの演奏も実に素晴らしい。アドリブとスコアが完全に調和する,そのほんのちょっと手前の部分に「プレイヤーの色」を乗せてくる。
 そんな「個性的な音色」をギル・エヴァンスが他の誰よりも期待し,他の誰よりも高く評価しているから,バンド・アンサンブルに「生命力」が宿り始める。互いへの絆や互いへの信頼があれば,とんでもなく大きな山をも動かすことができるのだ。

GIL EVANS:LIVE AT THE PUBLIC THEATER-2 ギル・エヴァンスオーケストラの中でも菊地雅章である。ギル・エヴァンスの音楽の作りを他の誰よりも理解している菊地雅章オーケストラ全体を引っ張っている。

 ギル・エヴァンスが書き上げた余白十分の譜面の中に,菊地雅章が音符を書き込んでいく。ギル・エヴァンス菊地雅章が2人で書き上げた譜面の音楽が『ギル・エヴァンス・ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』の中にある。

 “天才”ギル・エヴァンスと“天才”菊地雅章が,互いにソロだったら絶対に完成することなどできなかった,ギル・エヴァンスの“頂点のライブ”!
 
 「音楽を決して完成させない」ギル・エヴァンスが,右腕である菊地雅章の手を借りて,ついに「1つの完成形」を提示してみせたのが『ギル・エヴァンス・ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』。
 ただし,それでも『ギル・エヴァンス・ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』の“極上の音”を「未完成」だとギル・エヴァンスなら語ることだろう。

 
DISC 1
01. ANITA’S DANCE
02. JELLY ROLLS
03. ALYRIO
04. VARIATIONS ON THE MISERY
05. GONE, GONE, GONE
06. UP FROM THE SKIES

DISC 2
01. COPENHAGEN SIGHT
02. ZEE ZEE
03. SIRHAN’S BLUES
04. STONE FREE
05. ORANGE WAS THE COLOR OF HER DRESS

 
GIL EVANS : Electric Grand Piano
MASABUMI KIKUCHI : Synthesizer
PETE LEVIN : Synthesizer
TIM LANDERS : Electric Bass
BILLY COBHAM : Drums
ALYRIC LIMA : Percussion
ARTHUR BLYTHE : Soprano Saxophone, Alto Saxophone
HAMIET BLUIETT : Baritone Saxophone, Alto Flute
JOHN CLARK : Frenh Horn
LOU SOLOFF : Trumpet
JOHN FADDIS : Trumpet
HANNIBAL MARVIN PETERSON : Trumpet
GEORGE LEWIS : Trombone
DAVE BARGERON : Trombone, Tuba

(クラウン/BREAKTIME 1986年発売/BRJ-5003~4)
(CD2枚組)
(ライナーノーツ/悠雅彦)
アドリグをログするブログ “アドリブログ”JAZZ/FUSION

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